【日本経済新聞電子版 2023年1月27日 15:01 】
佐川急便は27日、個人が利用する宅配便の基本運賃を4月1日から平均で約8%引き上げると発表した。引き上げは2017年11月以来、5年半ぶり。佐川は配送の一部を協力会社に委託しているが、燃料費や人件費の負担が増す中、公正取引委員会は昨年、委託先との間でコスト上昇分を取引価格に反映する協議が不十分だと指摘した。今後、委託先との取引条件を見直し、トラック運転手らの待遇改善を狙う。
佐川は値上げで収益を改善し、配送委託先のドライバーらの待遇改善を進めたい考え。公取委は昨年末、下請け企業などとの間で原燃料費や人件費といったコスト上昇分を取引価格に反映する協議をしなかったとして佐川など13社・団体の名前を公表した。佐川は現在、委託先など協力会社に協議の場を設ける申し入れをしている。
物流業界は価格転嫁が遅れている。帝国データバンクが発表したコスト上昇分を販売価格にどれだけ反映したかを示す「価格転嫁率」(22年12月時点)は「運輸・倉庫」は20%で、全体の39.9%に比べて低い。調査では「価格交渉で受注減少が懸念される」との声もあり、委託先が委託料金の引き上げを要請しにくい状況がうかがえる。
21年度の宅配便荷物数は前の年度に比べて2.4%増の49億5323万個と7年連続で過去最高を更新した。電子商取引(EC)需要を追い風に拡大が続くが、荷物の獲得競争が激化する中、単価の安い小型荷物も増えて、物流会社の収益が圧迫されている。
宅配便首位のヤマト運輸は21年10月、アマゾンジャパンと連携して割安な配送サービスを提供すると発表。EC需要を取り込もうとするなかで小型荷物が増え、近年は平均単価の押し下げが顕著になっている。親会社のヤマトホールディングスの23年3月期の連結業績見通しは、売上高が前期比2%増の1兆8350億円に対し、純利益は20%減の450億円で利益確保に苦慮している。
日本郵便を傘下に持つ日本郵政の増田寛也社長は22年11月の記者会見で「価格競争をやって荷物の量を伸ばしても収益につながらない」と述べた。単価の安い小型荷物の存在感が高まる中、燃料費や人件費の上昇もあり、物流各社は対応を迫られている
運賃を8%上げてどれだけ取引価格に反映できるかは実際のところ不透明というのが現実。委託先は受け身であり、立場は弱い。価格交渉のテーブルが設置されたとしても価格と仕事の分量がどれだけ確保できるかという死活問題とが表裏一体だからだ。
「価格転嫁率」よりも仕事の受注確保の方が優先度は高い。
それよりも現状の物流サービスを維持していくためには「2024年問題」という労働時間規制をもクリアしていくことも含めて労働力の大幅な確保が不可欠だが、現状では外国人労働者の門戸を開放しない限り不可能である。
サービスを落として合理的な社会体制に転換するか、労働力を外部から注入するか、小手先の「価格転嫁率」よりも重要な問題ではないのか。
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