日本、港湾の競争力低下 コンテナ船の寄港20年で最低
【日本経済新聞電子版 2022年8月27日 22:00 】
新型コロナウイルス禍で日本の港湾競争力低下に拍車がかかっている。海上物流の混乱が長期化する中、海運会社は貨物量の少ない日本への寄港に後ろ向きで、国内主要港へのコンテナ船の寄港隻数は2021年に00年以降で最低を記録した。米国の主要港への直行便が減る中、荷主は韓国など国際ハブ港経由での輸送に切り替えざるを得なくなり、輸送日数の予想が難しくなるといった問題も浮上している。
国内で主要な東京港、横浜港、名古屋港、大阪港、神戸港の外航コンテナ船の寄港隻数をみると、21年が前年比8%減、コロナ前の19年比では12%減少した。22年1〜4月では前年同期比7%減で、このペースだと通年で3年連続で最低を更新する見込みだ。
背景には世界的なコンテナ物流の混乱がある。コロナ下の旺盛な巣ごもり消費や労働力不足により、米国や中国では多いときに100隻を超える渋滞が港で発生。運航スケジュールが大幅に遅延し、海運会社は本来予定されていた寄港地を飛ばす「抜港」をせざるを得ない状況だった。中国や韓国などの世界的な主要港が存在感を維持する一方で、日本は抜港の候補になりやすい。
コンテナ輸送自体は依然として活発だ。特にアジア主要10カ国地域から米国向けの輸送量が伸びている。米調査会社デカルト・データマインによると、21年が2052万個(20フィートコンテナ換算、母船積み地ベース)とコロナ前の19年比25%増と大幅な伸びを記録した。22年1〜7月も前年同期比4%増と増勢が続いている。
一方、日本発は21年が19年比16%減と大きく減少し、全体の輸送量に占めるシェアは1%台まで低下。19年には7位だったランキングもわずか2年で9位まで下がり地位低下が鮮明だ。
日本の海運関係者は「直行便はコロナ後も戻ってこない可能性が高い」とみる。これまで生産拠点の海外移転といった産業構造の転換が日本の港湾の地位低下につながっていた。だがコロナ禍で海運会社の「日本離れ」が加速している。
直行便が減り、日本の荷主は他国でのトランシップ(積み替え)を余儀なくされている。顕著なのが韓国やシンガポールだ。デカルト・データマインの集計によると、22年1〜6月は日本発貨物に占める直行便比率が61%と前年同期(71%)から10ポイント低下。約4割が他国経由の輸送を余儀なくされている。
財務省はトランシップが増えることで「リードタイムが長期化し、製造業の競争力低下のリスクがある」と指摘する。特にコロナ禍は港湾での船の渋滞が深刻で、寄港地が増える分だけ輸送日数の見通しにくくなり、在庫管理の難しさが増す。コンテナの積み下ろしが増えると荷の中身が破損するリスクも増える。
国内の大手精密機器メーカーは「韓国の釜山港で積み替えると、余計に2〜3日かかる。競争相手である韓国や中国企業と物流上の対等な条件も保証されず、致命的だ」としている。これまで、日本の製造業の衰退とともに港湾競争力も低下してきた側面が大きかった。だが、新型コロナの新常態によってこれまで以上に日本離れが加速し、製造業の地位も一段と低下するという悪循環に陥りつつある。
今日のNHKニュースで自然科学分野での日本が発した論文がトップ10から初めて漏れたという事実が明らかになり、人材育成でも隣国に後れをとってきたこととこの記事を重ね合わせると「ものづくり日本」の地位は一気に急降下し始めていることがわかる。
そもそも日本の港湾は90年代に入ると重工業や家電製造業、プラント輸出産業がコストの安い他国へ地位が奪われるのと機を同じくして衰退の道に歩まざるを得なくなった。加えて神戸港が顕著な例だが天災のダメージによってハブ港の役割が一気に釜山港や基隆港などに奪われてしまった。
コロナ禍による影響による悪循環を断ち切る方策を今からでも用意しておかないと2030年代には大きく離されてしまう。
2022年08月29日
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