2024年07月22日

混沌とする米大統領選

遅すぎた決断、まだ「どん底」ではない バイデン氏撤退

【日本経済新聞電子版 2024年7月22日 4:16 】

バイデン米大統領が再選をめざした選挙戦の継続を断念した。11月5日の投票日まで3カ月半しかない。遅すぎた決断は復権をめざす共和党のトランプ前大統領に勢いを与えた。後継候補に推されたハリス副大統領の下で民主党が結束できなければ、米国発の混沌が世界に広がりかねない。

「私の党と国家にとって最善の利益」。バイデン氏は21日の声明で選挙戦撤退の理由を簡潔に記した。81歳の老いと衰えをさらしたテレビ討論から撤退を決断するまで3週間あまりかかった。

「私は自分をかけ橋だと考えている。それ以外の何ものでもない」。4年前の選挙戦で、まだ70代だったバイデン氏はこう訴え、1期限りで退く可能性を示唆していた。

バイデン氏が再選をめざせば投票日を81歳で迎え、2期目を86歳で終えることは誰もが分かっていた事実だ。2023年4月にバイデン氏が再選出馬を正式に表明する前から、高齢不安は民主党内の最大の焦点だった。

不都合な事実に目をつぶり、早期の軌道修正に失敗した。「変化したのは私が引き継いだ経済、外交、国内分裂の深刻さだ」。バイデン氏は変心の理由をこう抗弁した。

バイデン氏だけの責任ではない。民主党全体が「現職大統領が再選をめざす以上、党が団結するのは当然」という「正論」を掲げ、新たな指導者を選ぶことで支持基盤が割れることを恐れた。

次世代のリーダーとされる人々も党内の協調を乱す「戦犯」となるのを危惧した。副大統領のハリス氏の不人気も思考停止に拍車をかけた。「非白人」「女性」という民主党の多様性の理念を体現するハリス氏を押しのけることも、大統領候補として担ぐと決めることもできなかったからだ。

皮肉なことに、22年の中間選挙で民主党が予想外に善戦したことも「バイデン再選」への異論を封じた。バイデン氏はトランプ氏と戦えば必ず自分が勝つと訴え続けたものの、暗殺未遂の銃撃の難を逃れた「強いトランプ」と、衰えの隠せない「弱いバイデン」という印象は覆せなくなった。

一つ確実なのは、共和党はバイデン氏が後進に道を譲ることを恐れていたことだ。バイデン氏は59歳のハリス氏を後継に推した。問題は民主党が大統領候補を選ぶ手続きの透明性を保ちつつ、早急に党内の結束を回復できるかどうかだ。

民主主義陣営を率いる米国の混乱は、中国やロシアといった権威主義国家にとって秩序の変更を試みる隙を生む。政治の迷走に嫌気した米国の有権者が投票に行く意欲を失えば、民主主義の復元力はそがれ、排外主義や孤立主義への米国の傾斜が早まるかもしれない。

王の老いが招く悲劇を描いた「リア王」で、シェークスピアは「最悪の状況から帰るところは笑いしかない」と記し、同時にこう戒めた。「『どん底だ』と言えるあいだはまだどん底じゃない」


遅すぎた決断が米大統領選挙にどのような影響を与えるのだろうか。トランプ復帰確実とは言われているが果たしてどうなるか。先が読めない。

しかし、1960年代に若きリーダー、ケネディ生んだアメリカの活力は今やどこへ行ってしまったのか。共和党も脛に傷だらけのトランプを推すしか道はなかったのか。社会の成熟と政治の発展はほとんど相関関係がないと言わざるをえない。今回の大統領選挙は民主主義のエアポケットに入ったような印象である。

この記事を書いた日本経済新聞のワシントン支局長 大越匡洋氏が懸念を示しているように政治の迷走を憂慮した有権者が参加の道を閉ざせば世界が混乱に陥る可能性が高く、その危険性を強く危惧する。
posted by 飯沢ただし at 23:27| 岩手 ☀| Comment(0) | My Diary  【ふつうの日記】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする