コロナ下こそ挑め 医師の働き方改革
【2021年4月30日 5:00 日本経済新聞電子版】
勤務医の長時間労働削減の推進策を盛り込んだ医療法改正案の国会審議が進んでいる。新型コロナウイルスの感染拡大という危機下だけに、医療現場には「残業抑制で人手不足に拍車がかかる」と不安視する声もある。だが、病床がすぐに逼迫してしまう日本のコロナ対応力を強めるためにも医師の働き方改革は必要だ。
過酷な長時間労働で医療現場を支えている勤務医は、働き方改革の流れから取り残されていた。実態からかけ離れた残業規制を導入すれば、患者に必要な医療を提供できなくなる恐れがあるとし、規制の適用を猶予されたためだ。ただその期限も24年3月末まで。猶予は残り3年となり、いよいよ改革に本腰を入れる必要が出てきている。
今回の法改正案には勤務医の働き方改革を進める方策を盛り込んだ。その一つは「タスクシフト」。医師以外の医療従事者に業務の一部を引き受けてもらうことで医師の負担軽減を目指すものだ。
だがこれだけでは足りない。勤務医の労働時間が長くなるのは、1つの病院内の問題というよりも、地域レベルで医療機関や医師の役割分担がうまくいっていないことが大きな要因だからだ。
軽い症状の患者も「大病院の方が安心」と救命医療を担うような病院に殺到。患者の列に追われ、何十時間も睡眠をとれないまま患者を手術する外科医がいる。一方で、診療報酬が高額になる急性期病床の看板を掲げながら、実際には重篤でない患者でベッドを埋める病院が存在する。診療科や地域ごとの医療ニーズを反映できない医師の配置――。こうした構造要因にメスをいれなければ、一部の勤務医に負荷が集中する根本的な構図は変わらない。
人口あたりのコロナ患者数が米国や英国を大きく下回るのに、すぐに深刻な病床不足に陥る日本医療のもろさの底流にも、これらと同じ構造問題が横たわる。最初の緊急事態宣言が出された20年春の労働時間がそれまでと比べて増えた医師は1割強にとどまり、7割は変化なし、2割弱は減ったとの調査もある。コロナ病床の逼迫問題を解決する要諦も、働き方改革と同様に、患者ニーズと地域の医療資源を見極め、医療機関と医師の役割分担を最適化できるかどうかにある。
医師の働き方改革は「コロナだから先送りする」のではなく「コロナだからこそ官民一体で腰を据えてやる」のが正解ではないか。
この論説員の指摘は実に傾聴に値する。大病院にかかったほうが安心説は、かかりつけ医を持ちなさいの発信普及がじんわりとは効いてきている方向にあるが、まだまだ完全には至っていない。診療標榜の自由に関してはなかなか法的制約が難しいが地域の医師会が中心となって地域のニーズに合うように誘導できないかと思う。
本県は幸いなことに感染症専用ベッドがひっ迫していないが、感染病床数に関してもこのような爆発的な患者数の増加には耐えられない状態になっている。この問題も弾力的に運用できるようなルールが必要であろう。
県立病院が命の砦となって本県にとっては医師の働き方改革をクリアすることは大きなハードルである。現時点で医師数は80名ほど必要との先の予算特別委員会において医療局長からの答弁があった。これは並大抵数字ではない。コロナだからこそ腰を据えて対応する必要がある。