28日(水)の本会議終了後に岩手県議会ILC建設実現議員連盟の総会が開催されました。
日本学術会議が現時点で公表されている「国際リニアコライダー計画の見直し案に関する所見」(案)に関して事実誤認があり、また委員会中で述べられている参考意見、参考資料の内容が十分に理解されていないことを鑑み、KEK ILC準備室が中心となって11月19日(月)に行った意見・説明会が行わたことに関してその具体的内容について説明者として立ち会った岩手県立大学学長 鈴木厚人氏かららその内容について説明を頂きました。内容はかなりのボリュームなので重要なポイントだけをここに記します。
事前に確認すべき事項
1・日本政府の意思決定における現時点の段階について
現時点は日本政府が建設の承認を判断する段階でなく、これまでの研究者主導の非公式の国際協議から一歩踏み出し政府間における協議を正式に開始するかどうかを判断する段階
2・大型国際プロジェクトにおける国際的な意思決定プロセスについて
大型国際プロジェクトは、欧米では意思決定プロセス(米国ではCritical Dicision (CD) Processと呼ぶ)を経て段階的に行うのが通常である。CD1、CD2というように段階を経て条件が整わなければ実施継続しない。(私の認識:日本ではもんじゅ計画のように一旦ゴーサインが出ると後も出りできないケースがほとんどでそれらの前例が委員会の意思決定を硬直させている可能性がある。)日本にとって大型国際プロジェクトは初めてのことでありスタンダードとなっている意思決定プロセスを導入することを提案している。
3・国際研究機関を日本に誘致する価値について
検討委員会ではILCには科学的意義、技術的・経済的波及効果を超えて、容易に数値できない重要な価値があることよりもリスクについての議論が中心となり、プロジェクトが持つ可能性についての議論がほとんどされていないのは残念。特に計量値化ができない人材の育成については無限の効果があり、世界の科学技術をリードする科学技術国のシンボルとなりホスト国の誇りをもたらす。(私の認識:国際研究所が我が国に成立、実現すれば安全保障上でも大きな波及効果をもたらす。)
以下事実誤認や理解が不足していると思われる点を指摘した主な点をピックアップすると
@検討委員会報告: トリチウムその他の放射性物質の(万が一の)漏出事故等に備えた安全対策を含む、不測の事態や長期的な消耗に対する備えについてより丁寧な説明が必要
説明会における意見: ビームダンプの安全対策についてはトリチウムを含む放射化の評価を行い、説明をやってきたが、さらに十分な説明・検討を行う。
A検討委員会報告: ILC建設地に多くの研究者とその家族が定住して国際科学研究都市が実現するというシナリオが描かれているようである。(中略)ILC稼働段階に入れば現地に必ず駐在するのは加速器の運転保守に携わる人員などが主となることが想定される。データ解析がオンラインでできる今の時代に素粒子物理研究者が現地に常駐する必然性は乏しい。
説明会における意見:「データ解析がオンラインでできる今の時代に素粒子物理研究者が現地に常駐する必然性は乏しい。」は、高エネルギー物理実験の実情に合わない。研究者は実験現場に集まる。
鈴木厚人氏からの県議会への説明:実験がインターネットでできるなら大型実験装置の必要性はない。装置は人間がつくるもの。装置の補正は必ず必要となる。また研究者の実験目的別に様々な工夫をこらす。そのために実験場に研究は必ず集まる。
これ以外にの10点以上において事実誤認と正確な理解が必要な点を指摘したことが鈴木氏から説明をされました。
このように検討委員会の「所見(案)」はこれまでの委員会の審議の中において説明者の意図を汲む姿勢が乏しいと認識しました。いわゆる結論ありきの決め打ち的な内容であることが多い、多すぎる!と私は理解しました。
説明会ではメディア関係者50人以上が集まり、説明会後のぶら下がり取材でも鈴木氏はへ多くの社からが興味深く質問をされたそうです。その結果この説明会以後には全国紙の社説等で我が国の科学の発展や国益に関する総合的な見地で政府は判断すべきとの論調が多く見られるようになりました。
以前私がこのブログで書いたように、ようやくILCプロジェクトに関して政府がスタートラインについたと言えるでしょう。私たちの地域でもリスクに着目するのも勿論必要ですが、同時に将来の可能性に関しても科学的に冷静かつ熟した議論が求められていると考えます。